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ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr, 1906年11月30日 - 1977年2月27日)は、アメリカ合衆国の推理作家。カーター・ディクスン(Carter dickson)、カー・ディクスン(Carr Dickson)、ロジャー・フェアベーン(Roger Fairbairn)という別名でも作品を発表している。名前の頭文字をとってJDCと呼ばれることもある。
1906年ペンシルバニア州のユニオンタウン(Union town)に生まれる。父は連邦議会下院議員や郵便局長を務めた弁護士のウッダ・ニコラス・カー。地元の高校を卒業してハヴァフォード大学(en:Haverford College)に入学した。この頃から学園誌に歴史小説や推理小説を発表するようになる。しかし、数学の単位が取れず2年で中退すると海を渡ってしばらくパリを遊学した。
帰国した後、1930年に発表したパリを舞台にした第一長編『夜歩く』が評判となり、以後は作家の道を歩むようになる。1932年にはイギリス人のクラリス・クリーヴスと結婚してイギリスに渡り、第二次世界大戦後にかけてイギリスで暮らした。江戸川乱歩が激賞した『帽子収集狂事件』や『三つの棺』といった代表作が執筆されたのもこの頃のことである。また経済的な理由からあらたに別のペンネーム(カー・ディクスン、後にカーター・ディクスン)でも精力的に作品を発表していった。
1936年にカーはアメリカ人として初めてイギリスのの推理作家団体であるディテクションクラブに招聘される。推薦者はカーの筆力をいち早く認め、書評で絶賛したドロシー・L・セイヤーズとアントニー・バークリーでここで同時代の多くの作家たちと親交を深めることになる。
カーはアメリカに一時帰国したのち、戦争勃発と共にイギリスへ帰り、BBCのラジオドラマやプロパガンダ放送などを手がけた。このうちラジオドラマは後年の短編集にその脚本が収められている。
第二次世界大戦中は家を爆撃されて失い、戦後も物不足できびしい生活が続いたため、1947年にアメリカのママロネックに移住した。アメリカではエラリー・クイーンやクレイトン・ロースンらと親しくなり、ロースンとは同テーマで競作をし、『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』では書評を担当した。シャーロック・ホームズシリーズの熱烈なファンであったカーは作者アーサー・コナン・ドイルの次男のエイドリアン・コナン・ドイルによる依頼でドイルの評伝を執筆し、エイドリアンとホームズのパスティーシュを合作した。
その後タンジールに住んだり、イギリスに戻ったりしたが、結局アメリカに帰り、1977年にガンで亡くなった。カーに関する評伝や研究書は数多い。
登場する探偵
1930年の処女長編『夜歩く』から数作はアンリ・バンコランというフランス人探偵が活躍したが、悪魔的な性格から読者の共感を得られず、その後に創造した1933年の『魔女の隠れ家』でデビューしたギデオン・フェル博士と、1934年の『プレーグコートの殺人』でデビューしたヘンリー・メリヴェール卿(通称H・M卿)の方が有名である。その他短編ではロンドン警視庁D3課長マーチ大佐が登場する。なお、メリヴェール卿ものとマーチ大佐もののほとんどはカーター・ディクスンのペンネームで発表された。フェル博士はG・K・チェスタトンを、H・M卿はウィンストン・チャーチルをモデルにしているといわれ、本のカバーもその二人を模して描かれている。
作風
密室殺人や人間消失をはじめとする不可能犯罪をテーマにした作品が多く「不可能犯罪の作家」の異名を持つ。1935年の『三つの棺』の密室講義は、密室トリックを分類したものとして単独でも名高い。初期作品には敬愛したG・K・チェスタトンとエドガー・アラン・ポーの影響を受けた怪奇色が強く、複雑なトリックを使用した作品が多いが、第二大戦中ごろは怪奇色の薄い、より単純なトリックを使った作品が多くなってくる。1950年の『ニューゲイトの花嫁』以降は、上記の探偵が登場しない歴史ミステリも増えた。こちらは謎解きという点での評価はあまり高くないが、綿密な資料読み込みにより、当時の風俗などの描写が生き生きと描かれている点で評価が高い。
また『連続殺人事件』や『盲目の理髪師』それにH・Mの登場する作品などはドタバタ喜劇(ファースものと呼ばれる)を主軸にした笑い溢れるものに仕上がっている。そのユーモアゆえに新進作家時代にはユーモア作家P・G・ウッドハウスの変名ではないかと書かれたこともある。上記のトリックメーカーとしての顔と併せて、常に読者に刺激を与えるというのが作風の基本姿勢である。
アメリカの作家であるがイギリスに長く在住し作品の舞台もほとんどがイギリスのため、名鑑などにはしばしば「米?英作家」と記載される。
ウィリアム・ブリテンの作品に『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』という、カーの作品をパロディーにした短編ミステリーがある。
主な作品リスト
とくに注記がない限り本名名義の作品・原題は基本的に米題で『』内は最新の邦題
長編
アンリ・バンコランもの
1930年 It Walks by Night『夜歩く』
1931年 The Lost Gallows 『絞首台の謎』
1931年 Castle Skull 『髑髏城』
1932年 The Corpse in the Waxworks 『蝋人形館の殺人』
1937年 The Four False Weapons 『四つの凶器』
ギデオン・フェル博士もの
1933年 Hag's Nook 『魔女の隠れ家』
1933年 The Mad Hatter Mystery 『帽子収集狂事件』
1934年 The eight of Swords 『剣の八』
1934年 The Blind Barber 『盲目の理髪師』
1935年 Death-Watch 『死時計』
1935年 The Three Coffin 『三つの棺』
1936年 The Arabian Nights Murder 『アラビアンナイトの殺人』
1938年 To wake the Dead 『死者はよみがえる』
1938年 The Crooked Hinge 『曲がった蝶番』
1939年 The Problem of the Green Capsule 『緑のカプセルの謎』
1939年 The Problem of the wire Cage 『テニスコートの謎』
1940年 The Man Who Could Not Shudder 『震えない男』
1940年 The Case of the Constant suicides 『連続殺人事件』
1942年 Death Turns the Table 『猫と鼠の殺人』
1944年 Till Death Do Us Part 『死が二人をわかつまで』
1946年 He Who Whispers 『囁く影』
1947年 The Sleeping Sphinx 『眠れるスフィンクス』
1949年 Below Suspicion 『疑惑の影』
1958年 The Dead Man's Knock 『死者のノック』
1960年 In Spite of Thunder 『雷鳴の中でも』
1965年 The House at Satan's Elbow 『悪魔のひじの家』
1966年 Panic in Box C 『仮面劇場の殺人』
1967年 Dark of the Moon 『月明かりの闇』
ヘンリー・メリヴェール卿もの(カーター・ディクスン名義)
1934年 The Plague Court Murders 『プレーグ・コートの殺人』
1934年 The White Priory Murders 『白い僧院の殺人』
1935年 The Red Widow Murders 『赤後家の殺人』
1935年 The Unicorn Murders 『一角獣殺人事件』
1937年 The Punch and Judy Murders 『パンチとジュディ』
1937年 The Peacock Feather Murders 『孔雀の羽根』
1938年 The Judas Windows 『ユダの窓』
1938年 Death in Five Boxes 『五つの箱の死』
1939年 The Reader is Warned 『読者よ欺かるるなかれ』
1940年 And So to Murder 『かくして殺人へ』
1940年 Nine-and Death Makes Ten 『九人と死で十人だ』
1941年 Seeing is Believing 『殺人者と恐喝者』
1942年 The Gilder Man 『仮面荘の怪事件』
1943年 She Died a Lady 『貴婦人として死す』
1944年 He Would'nt Kill Patience 『爬虫類館の殺人』
1945年 The Curse Of The Bronze Lamp 『青銅ランプの呪』
1946年 My Late Wives 『青ひげの花嫁』
1948年 The Skelton in the Clock 『時計の中の骸骨』
1949年 The Graveyard to Let 『墓場貸します』
1950年 Night at the Mocking Widow 『魔女が笑う夜』
1952年 Behind the Crimson Blind 『赤い鎧戸のかげで』
1953年 The Cavelier's Cup 『騎士の盃』
歴史ミステリ
1934年 Devil Kinsmere (ロジャー・フェアベーン名義)
1936年 The Murder of Sir Edmund Godfrey 『エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件』
1950年 The Bride of Newgate 『ニューゲートの花嫁』
1951年 The Devil in Velvet 『ビロードの悪魔』
1955年 Captain Cut-Throat 『喉切り隊長』
1956年 Fear Is the Same 『恐怖は同じ』 (カーター・ディクスン名義)
1957年 Fire, Burn! 『火よ燃えろ!』
1959年 Scandal at High Chimnys 『ハイチムニー荘の醜聞』
1961年 The Witch of the Low-Tide 『引き潮の魔女』
1962年 The Demoniacs 『ロンドン橋が落ちる』
1964年 Most Secret 『深夜の密使』
1968年 Papa Là-Bas 『ヴードゥーの悪魔』
1969年 The Ghosts' High Noon 『亡霊たちの真昼』
1971年 Deadly Hall 『死の館の謎』
1972年 The Hungry Goblin 『血に飢えた悪鬼』
ン・シリーズ
1932年 Poison in Jest 『毒のたわむれ』
1934年 The Bow String Murders 『弓弦城殺人事件』 (カー・ディクスン、のちにカーター・ディクスン名義)
1937年 The Burning Court 『火刑法廷』
1937年 The Third Bullet 『第三の銃弾』 (カーター・ディクスン名義)
1942年 The Emperor's Snuff-Box 『皇帝のかぎ煙草入れ』
1952年 The 9 Wrong Answers 『九つの答』
1956年 Patrick Butler for the Defence 『バトラー弁護に立つ』
合作長編
1939年 Fatale Descent 『エレヴェーター殺人事件』(ジョン・ロードとカーター・ディクスン名義で合作)
リレー長編
1953年 Crime on the Coast 『殺意の海辺』
短編集
1940年 The Department of Queer Complaints 『不可能犯罪捜査課』
1947年 Dr.Fell,Detective and Other Stories
1954年 The Third Bullet and other Stories
1963年 The Men Who Explained Miracles
合作短編集
1954年 The Exploits of Sherlock Holmes 『シャーロック・ホームズの功績』 (エイドリアン・ドイルと合作)